会計やさんのメモ帳

先物・オプション取引等の会計基準に関する意見書等について

平成二年五月二十九日

企業会計審議会第一部会

目次

先物・オプション取引等の会計基準に関する意見書等について

第一部 先物オプション取引等に係る時価情報の開示に関する意見書

一 時価情報の開示の必要性

二 先物・オプション取引に係る時価情報の開示基準

三 市場性ある有価証券にかかる時価情報の開示基準

第二部 先物取引に係る会計処理に関する中間報告

一 中間報告の性格

二 先物取引に係る会計処理

三 先物取引に係るヘッジ会計

設 例

〔設例1〕(その1:差金決済)

〔設例2〕(その2:現受け決済)

〔設例3〕(その1:分離方式と一体方式)

〔設例4〕(その2:先物損益の配分)

〔設例5〕(その2:予定取引のヘッジ取引)


先物・オプション取引等の会計基準に関する意見書等について

1 近年、我が国の金融・資本市場は、金融の自由化、国際化、証券化の進展等を背景として急速に拡大しており、特に企業の投資機会の増大、相場変動リスクへの対応等の観点から証券・金融先物取引及び同オプション取引制度が次々と導入され、着実に発展してきている。

他方、我が国の現行企業会計実務を顧みると、先物・オプション取引に係る会計処理の方法及び開示の方法は、未だ制度として確立されておらず、その取引実態が財務諸表に正しく反映されていないため、その適切な会計処理と十分な財務情報の開示に関する会計基準の設定が、強く求められている。

2 当審議会においては、このような状況に鑑み、平成元年四月以降、第一部会及び同小委員会において、先物取引に係る損益の認識方法、ヘッジ会計の導入、オフ・バランス取引の実態開示方法等について鋭意審議を重ねてきた。

その結果、本報告では、先物・オプション取引に係る企業の経営実態をより的確に開示するため、それらの取引に係る時価情報の開示基準を設定するとともに、併せて当該時価情報の有用性を高める等の観点から、市場性ある有価証券に係る時価情報の開示基準を設定することとし、これを別添のとおり「第一部 先物・オプション取引等に係る時価情報の開示に関する意見書」としてとりまとめた。

また、先物取引の会計処理基準については、現段階において、損益の認識、ヘッジ会計の方法等に関する確定的な基準を設定するには、なお検討を要する多くの問題点が残されていることから、本報告では、当審議会における検討内容を踏まえた基本的な考え方及び会計処理方法を今後の検討材料として示すこととし、これを別添のとおり「第二部 先物取引にかかる会計処理に関する中間報告」としてとりまとめた。

なお、オプション取引の会計処理基準については、今後、オプション取引の定着状況、会計実務の推移等を踏まえながら検討していく予定であるが、契約時に授受されるオプション料の処理方法については、現行の会計実務上混乱がみられるため、第一部においてその統一を図ることとした。

3 先物取引の会計処理基準について、当審議会としては、今後、産業界、金融・証券界、会計界等において積極的かつ建設的な検討が行われ、もって将来の基準設定に向けての十分な環境整備が図られるよう期待するものであり、特に先物損益の認識については、オプション取引その他の金融商品取引等に係る問題も含め、商法及び税法上からも検討が行われることが望ましいと考える。

また、企業は、近年、先物・オプション取引以外にも金利・通貨スワップ取引、特定金銭信託等多様な金融商品取引を活発に行っているが、今後、それらの取引実態に関する財務情報の開示についてもその充実を図る必要があると考える。

第一部 先物オプション取引等に係る時価情報の開示に関する意見書

一 時価情報の開示の必要性

1 本意見書は、証券・金融先物及びオプション取引に係る時価情報並びに市場性ある有価証券に係る時価情報の開示基準をとりまとめたものである。なお、商品先物及び同オプション取引については、その目的や仕組み等、上記の取引と類似する点が多いので、本意見書に示された開示基準に準じて、その時価情報を開示するものとする。

2 先物・オプション取引等に係る時価情報の開示が必要とされる主な理由は、次のとおりである。

(1) 最近における金融・資本市場の急速な整備・拡充を背景として、先物・オプション取引等多様な金融商品取引が活発に行われるようになってきているが、企業は、これらの金融商品取引を利用して新たな収益機会を得る一方、価格リスク、金利リスク、為替リスク等各種のリスクにさらされる度合いを深めている。しかも、このような投資収益及びリスクの状況等金融商品取引に係る財務情報は、現行実務上、その多くがオフ・バランスとなっているため、投資者等企業の利害関係者(以下「投資者等」という。)は、それらの取引実態を的確に把握することが困難となっている。

特に先物・オプション取引については、その取引量も増大し、かつ、取引のグローバル化の傾向も顕著になってきているため、これらの取引の実態について、十分な財務情報の開示が、強く求められている。

(2) 先物取引の未決済の契約額は、現行実務上、オフ・バランスとなっており、また、オプション料についても、契約時にこれを収益・費用として処理している場合には、売建又は買建オプションが存在しても、その事実がオフ・バランスとなっている。

さらに、現行実務では、先物・オプション取引に係る損益は、当該取引を決済するまではこれを認識しない決済基準が採用されているので、先物・オプション取引が企業財務に与える影響は、当該取引の決済時まで明らかにされない。従って、これらの取引の実態が適時・適切に開示されるためには、先物取引の決済時における未決済の契約額及びオプションの貸借対照表価額に加えて、それぞれに対応する時価及び差損益を財務諸表に対する注記として開示し、財務諸表の有用性を高める必要がある。

(3) 先物・オプション取引に係る損益を決済時まで認識しない現行実務のもとでは、期末において利益の発生している取引のみを決済し、損失の発生している取引を未決済のまま残すといった恣意的な取引を行うことにより期間損益を操作する余地があるが、かかる操作を抑止するためにも、時価情報を開示することは有用である。

3 市場性ある有価証券に係る時価情報の開示が必要とされる主な理由は、次のとおりである。

(1) 先物・オプション取引がヘッジ目的で行われる場合には、先物・オプション取引に係る時価情報と、当該先物・オプション取引によりヘッジされている現物の有価証券等、特に市場性ある有価証券に係る時価情報を併せて開示しないと、ヘッジ取引に係る損益情報の開示が偏り、投資者等の判断を誤らせるおそれがある。

(2) 近年、企業資産のうち有価証券の保有額は、急速に増加しており、かつ、その含み損益が著しく増大しているため、企業の現状分析や将来性の判断資料として、かかる含み損益を加味した財務情報の開示が求められている。従って、保有有価証券の含み損益を開示することは、財務諸表の有用性を一層高めることとなる。

(3) 米英等においては、市場性ある有価証券に係る時価情報の開示が行われており、我が国においても会計基準の国際的調和の観点から時価情報の開示を制度化し、対外的にも我が国企業の財務情報の透明性を高める必要がある。なお、既に我が国の銀行・証券会社の一部及びSEC基準で連結財務諸表を作成している企業等においては、何らかの形で有価証券に係る時価情報が開示されている。

(4) 現在、有価証券の評価基準として原価法と低価法の選択適用が認められているが、原価法を適用している企業と低価法を適用している企業との間の開示面での均衡を図る観点からも、市場性ある有価証券の時価情報の開示が必要である。

二 先物・オプション取引に係る時価情報の開示基準

1 開示の対象

開示の対象とすべき先物・オプション取引は、取引所に上場されている証券・金融先物及び同オプション取引とする。

2 開示すべき情報

開示すべき情報は、先物取引については決算時における未決済の契約額、これに対応する時価及び差損益とし、オプション取引については決算時におけるオプションの貸借対照表価額、これに対応する時価及び差損益とする。

3 開示の方法

(1) 先物取引に係る時価情報は、株式、債券、金利等の種類ごとに、売建・買建別に開示する。また、オプション取引に係る時価情報は、株式、債券、金利等の種類ごとに、売建・買建、コール・プット別に開示する。ただし、種類について金額的に重要性の乏しい場合には「その他」に一括して開示することができる。

(2) オプションの貸借対照表価額は、売建又は買建時に授受されるオプション料の額とし、売建時に受け取ったオプション料は「売建オプション」等適当な科目をもって貸借対照表の負債の部に、買建時に支払ったオプション料は「買建オプション」等適当な科目をもって貸借対照表の資産の部に、それぞれ記載する。

(3) 先物取引の契約額又はオプションの貸借対照表価額に対応する時価は、決算時における取引所の相場を用いて算出する。

なお、外貨建取引に係る時価は、外貨による時価を決算時における為替相場を用いて換算する。

(4) 差損益は、先物取引の契約額叉はオプションの貸借対象表価額とそれぞれの時価との差額とする。

4 開示の箇所

財務諸表及び中間財務諸表の注記として開示する。

5 開示の様式

先物取引にかかる時価情報は、おおむね様式1により、オプション取引に係る時価情報は、おおむね様式2により開始する。

三 市場性ある有価証券にかかる時価情報の開示基準

1 開示の対象

開示の対象とすべき有価証券は、証券取引所に上場されている有価証券及びこれに準ずる有価証券とする。

2 開示すべき情報

開示すべき情報は、決算時における有価証券の貸借対照表価額、これに対応する時価及び評価損益とする。

3 開示の方法

(1) 流動資産に属する有価証券と固定資産に属する有価証券に区分し、さらに株式、債券等の種類別に開示する。ただし、種類について金額的に重要性の乏しい場合には「その他」に一括して開示することができる。

(2) 有価証券の貸借対照表価額に対応する時価は、決算時における市場の相場を用いて算出する。

なお、外貨建有価証券に係る時価は、外貨による時価を決算時における為替相場を用いて換算する。

(3) 評価損益は、貸借対照表価額と時価との差額とする。

(4) 関係会社有価証券については、有価証券の種類別に、貸借対照表価額、時価及び評価損益を、内書として開示する。

4 開示の箇所

財務諸表及び中間財務諸表の注記として開示する。

5 開示の様式

市場性ある有価証券に係る時価情報は、おおむね様式3により開示する。

 

(様式1)

先物取引に係る時価情報

 
種類及び売建・買建の別契約額時価差損益
株  式   
   売 建×××××××××
   買 建×××××××××
債  権   
   売 建×××××××××
   買 建×××××××××
金   利   
   売 建×××××××××
   買 建×××××××××
そ の 他   
   売 建×××××××××
   買 建×××××××××
合  計   
   売 建×××××××××
   買 建×××××××××
差引計×××

 

(様式2)

オプション取引に係る時価情報

 
種類及び売建・買建、コール・プットの別貸借対照表価額時価差損益
株  式   
   売 建   
     コール×××××××××
     プット×××××××××
   買 建   
     コール×××××××××
     プット×××××××××
債  権   
   売 建   
     コール×××××××××
     プット×××××××××
   買 建   
     コール×××××××××
     プット×××××××××
金   利   
   売 建   
     コール×××××××××
     プット×××××××××
   買 建   
     コール×××××××××
     プット×××××××××
そ の 他   
   売 建   
     コール×××××××××
     プット×××××××××
   買 建   
     コール×××××××××
     プット×××××××××
合  計   
   売 建×××××××××
   買 建×××××××××
差引計×××

(注)上場オプション取引の他、店頭で行われているオプション取引(債権店頭オプション、通貨オプション取引等)については、オプションの種類、売建、買建、コール・プット別に貸借対照表価額を注記すること。

 

(様式3)

市場性ある有価証券に係る時価情報

 
 種    類貸借対照表価額時価 評価差損益
 (1)流動資産に属するもの   
    株 式××× ××× ××× 
    債 権××× ××× ××× 
    その他××× ××× ××× 
    小 計××× ××× ××× 
 (2)固定資産に属するもの   
    株 式××× ××× ××× 
    債 権××× ××× ××× 
    その他××× ××× ××× 
    小 計××× ××× ××× 
    合 計××× ××× ××× 

 

第二部 先物取引に係る会計処理に関する中間報告

一 中間報告の性格

1 当審議会は、先物取引及び同取引を利用したヘッジ取引に係る会計処理の基準とその問題点、具体的会計処理方法等について検討を重ねてきたが、先物取引の損益認識について会計基準を設定し、また、ヘッジ会計を導入することは、後述の理由により、時期尚早であるとの判断に基づいて、これまでの審議経過を踏まえた基本的な考え方を中間報告としてとりまとめ、今後、確定基準を定める際の検討材料を提供することとした。

オプション取引の会計処理については、オプション取引が我が国に導入されてなお日が浅く、今後、その定着状況と市場の動向、会計実務の推移等をみきわめる必要があること等の理由により、今後の検討に委ねることとする。

2 企業会計上、先物取引に係る相場の変動を損益として認識する基準としては、値洗基準と決済基準が考えられる。前者は、先物相場の変動に基づく値洗差額を、値洗いのつど損益として認識する基準であり、後者は、先物相場の変動に基づく値洗差額を、当該先物取引の決済時に損益として認識する基準である。

我が国の現行実務においては、決済基準が採用されているが、その具体的会計処理については、企業間に若干の差異がみられることから、当面、実務の統一に資するため、本報告においてその基本的な処理方法を示すこととした。

3 しかしながら、決済基準については、なお、次のような問題点が指摘されている。

(1) 先物取引がオフ・バララン処理され、決済されるまで損益が認識されないため、企業の先物����引に係る経営実態を的確に把握するうえで適切かつ十分な財務情報が投資者等に提供されない。

(2) 特に、先物相場の変動による損失が発生している場合、これに認識しないことは財務の健全性の観点から好ましくない。

(3) 期末において、利益の発生している先物取引のみを決済し、損失の発生している先物取引を未決済のまま残すといった恣意的な取引を行うことにより期間損益を操作する余地を排除することができない。

(4) ヘッジ目的で行われている未決済の先物取引に係る損益が期末に認識されないため、仮にヘッジ対象物に係る損益が期末までに認識されると、当該損益がヘッジ取引によってカバーされている経済的実態が財務諸表上反映されない。

4 他方、値洗基準は、先物取引に特有の値洗制度に着目し、先物取引は日々完結しているという見方に立脚して、日々の相場変動に基づく値洗差額を損益として認識するものであり、従って、この基準は、企業の実態開示を重視する損益計算の目的に一層適合すると考えられる。また、値洗基準の採用により、決済基準について指摘されている上述の問題点の多くは解決すると考えられ、さらに、現行の外貨建取引等会計処理基準による短期金銭債権債務等の換算方法との整合性を保つことができること、米英等の会計実務においては値洗基準が一般的であり、会計基準の国際的調和にも資すること等の理由により、値洗基準の採用が望ましいと考えられる。

しかし、値洗基準については次のような問題点が指摘されており、従って、これを直ちに先物損益の認識基準として確定することは適当でないと考えられる。

(1) 値洗基準の採用は、ヘッジ会計の導入と合わせ検討する必要があるが、ヘッジ会計の導入については、ヘッジ関係の有無の判定方法、先物損益の配分及び繰延方法等なお多くの問題が残されている。

(2) 値洗基準により認識される先物損益は、当該先物取引が決済されるまでは未確定なものであり、従って、これを商法上の配当可能利益及び税務上の課税所得に算入することの可否について、商法及び税法との関連問題としてなお検討する必要がある。

(3) 先物取引については、値洗制度に着目して値洗基準により損益を認識することが制度的及び理論的に可能であるとしても、値洗制度のないオプション取引その他の金融商品取引等について、値洗基準と整合性のある会計基準を設定することがでるかどうかについてなお検討する必要がある。

二 先物取引に係る会計処理

1 決済基準による場合

(1) 契約時

先物取引の売買約定の成立時には、当該契約につき特に会計処理は行わない。

ただし、契約にあたって授受される証拠金は、次のように処理する。

① 取引所会員が一般顧客から受け入れた委託証拠金は、「先物取引受入証拠金」等適当な科目で処理し、取引所に差し入れた取引証拠金は「先物取引差入証拠金」等適当な科目で処理する。

② 一般顧客が差し入れた委託証拠金は、「先物取引差入証拠金」等適当な科目で処理する。

(2) 先物相場の変動時(又は決算時)

① 取引所会員は、値洗いのつど、授受される値洗差額金を、「先物取引差金」等適当な科目で処理する。

② 一般顧客は、値洗差金についての会計処理は行わない。

(3) 反対売買による決済時

証拠金の返還・回収、先物取引差金の決済、手数料の授受等の処理を行うとともに、先物取引の契約時から反対売買による決済時までの間に生じた先物相場の変動額を損益として認識する。

この場合の処理は、次による。

① 取引所会員は、自己取引に係る先物取引差金の残高を、「先物利益(損失)」等適当な科目で損益として認識する。

② 一般顧客は、決済された先物取引差金を、「先物利益(損失)」等適当な科目で損益として認識する。

(4) 現物の受け渡しによる決済時

買受け時における受入価額(取得価額)又は売渡し時における売却価額は、最終清算値段を基礎として算定し、先物取引の契約時から受渡し決済時までの間に生じた先物相場の変動額を、「先物利益(損失)」等適当な科目で損益として認識するか、又は、当該変動額を損益として認識しないで、これを最終清算値段を基礎として算定した価額に加減する。

証拠金の返還・回収、手数料の授受等については、反対売買による決済の場合と同様に処理する。

2 値洗基準による場合

(1) 契約時

決済基準による場合と同様に処理する。

(2) 先物相場の変動時(又は決算時)

① 取引所会員は、値洗いのつど、授受される値洗差金について、自己取引に係るものは、「先物利益(損失)」等適当な科目で損益として認識し、一般顧客の委託取引に係るものは、「先物取引差金」等適当な科目で処理する。

② 一般顧客は、値洗のつど、値洗差金を「先物取引差金」等適当な科目で処理し、同額を「先物利益(損失)」等適当な科目で損益として認識する。

(3) 反対売買による決済時

証拠金の返還・回収、先物取引差金の決済・手数料の授受等の処理を行う。

(4) 現物の受渡しによる決済時

買受け時における受入価額(取得価額)又は売渡し時における売却価額は、最終清算値段を基礎として算定する。

証拠金の返還・回収、手数料の授受等ついては、反対売買による決済の場合と同様に処理する。

以上の会計処理の方法について設例を示すと〔設例1〕及び〔設例2〕のようになる。

三 先物取引に係るヘッジ会計

1 ヘッジ会計の意義

先物取引に係るヘッジ会計とは、ヘッジ対象物に係る損益と先物取引に係る損益を同一の会計期間に認識し、前者を後者で相殺する処理を行う会計である。先物取引によるヘッジは、将来の相場変動リスクを回避するため、先物市場において、現物ポジション又は未履行の確定契約もしくは予定取引(以下、両者を一括して「予定取引」という。)と反対のポジションを組むことにより行われる。

ヘッジの方法には、個別ヘッジと包括ヘッジがあり、前者は、先物取引とそのヘッジ対象物との対応関係が個別的に特定可能なものをいい、後者は、先物取引が複数の対象物を包括的にヘッジ対象としているのをいう。

ヘッジ目的の先物取引については、個別ヘッジか包括ヘッジかを問わず、企業会計上、ヘッジ取引の経済的実態をより適切に表現するために、ヘッジ対象物に係る損益と先物取引に係る損益をできる限り合理的に期間対応させる会計処理が必要である。

2 ヘッジ会計の方法

(1) 損益の期間対応

現行の会計制度のもとでは、現物有価証券等の評価基準として原価法と低価法があり、先物損益の認識方法としては、決済基準と値洗基準がある。これらの基準の適用に当たり、たとえば、①先物取引について値洗基準が採用され、ヘッジ対象物が原価評価されている場合、又は②先物取引について決済基準が採用され、ヘッジ対象物が時価(低価)で評価されている場合には、ヘッジ対象物に係る損益と先物取引に係る損益が期間的に対応しないこととなるので、両者の損益を同一期間に認識するため、ヘッジ会計が、次のように適用される。

すなわち、①の場合には、先物取引については損益が認識されるが、ヘッジ対象物については損益が認識されず、両者が期間的に対応しないため、ヘッジ対象物に係る損益が認識されるまで、先物損益を繰延べる。②の場合には、ヘッジ対象物については損益が認識されるが、先物取引については損益が認識されず、両者が期間対応しないため、先物損益を決済前に認識する。

なお、先物取引はすでに決済されているにもかかわらず、ヘッジ対象物については未だ損益が認識されていない場合は、ヘッジ対象物の損益が認識されるまで、先物取引の決済に係る損益を繰延べる。

先物取引が予定取引のヘッジを目的としている場合には、予定取引が履行され、この取引について損益が認識されるまで、先物損益を繰延べる。

(2) 一体方式と分離方式

ヘッジ会計の適用に際し、先物取引について認識された損益が、ヘッジ対象物について認識された損益を超える額の処理方法としては、一体方式(簿価修正方式)と分離方式(損益繰延方式)が考えられる。一体方式とは、その超過額をヘッジ対象物の帳簿価額に加減する方式をいい、分離方式とは、その超過額をヘッジ対象物の帳簿価額に加減しないで、別途、資産の部又は負債の部に計上して繰延べる方式をいう。

(3) ヘッジ方法と期間対応

個別ヘッジの場合には、先物取引の相場変動額をヘッジ対象物と個別的に関連づけることができるので、先物取引に係る損益とヘッジ対象物に係る損益を直接結びつけて期間対応させることが可能であるが、包括ヘッジの場合には、ヘッジ対象物が複数であるため、先物相場変動額を個々のヘッジ対象物に個別的に関連づけることはできない。従って、先物取引に係る損益とヘッジ対象物に係る損益を正しく期間対応させるには、先物取引の相場変動を適切と認められる基準に基づき、個々のヘッジ対象物に合理的に配分する必要がある。

3 ヘッジ会計の適用基準

ヘッジ会計適用の基本的要件は、ヘッジ対象物が相場変動リスクにさらされており、かつ、ヘッジ対象物の相場変動と先物取引の相場変動との間に密接な経済的相関があって、先物取引がヘッジ対象物のリスクを減少させる効果をもつことであるが、その適用にあたっては、次の条件がいずれも満たされなければならない。

(1) 先物取引が、ヘッジ取引であることについて、次のいずれかが客観的に確認できること(事前テスト)

① ヘッジ取引であることについて、会社の意思が確定していること。

② ヘッジ取引を認識する明確な内部規定又は内部統制組織が存在し、かつ、これに従って処理されていること。

(2) 次のいずれかによりヘッジの効果が客観的に認められること(事後テスト)

① ヘッジ対象物の相場変動と先物取引の相場変動との間に高い相関があったかどうかのテスト

② ヘッジ対象物の損益が先物損益によって相当の相殺が行われたかどうかのテスト

なお、事後テストは、ヘッジの開始時から終了時まで、ヘッジ行為の期間を通して実施する必要がある。

ヘッジの対象物が予定取引の場合は、上記の条件に加えて、次の条件が満たされなければならない。

(1) 取引予定日、売買予定物件、売買予定量等予定取引の主要な取引条件が確認できること

(2) 予定取引を実行する見込みが極めて高いこと

先物取引を利用したヘッジ取引には、種々のタイプが考えられるが、以上のヘッジ会計の方法について、典型的な取引を想定して設例を示すと、〔設例3〕、〔設例4〕及び〔設例5〕のようになる。

設 例

[設例1] 先物取引(その1:差金決済)

1 取引の状況

事業会社Aは、証券会社Bに委託して国債先物額面100百万円を単価90円で買建て、委託証拠金として3百万円をB社に差入れた。B社も同時に自己取引として同一の先物を買建て、取引証拠金として、委託取引につきA社からの委託証拠金のうち2百万円、自己取引につき2百万円、合計4百万円を取引所に差入れた。

当該先物の価格は、決算時に95円に上昇した。その後、相場の変動がなく95円で反対売買による差金決済を行った。(なお、手数料及び税金は考慮外としている。〔設例2〕において同じ)

2 会計処理

A社(事業会社)の処理

(1) 決済基準による場合

① 契約時

 
借方貸方
先物取引差入証拠金3現金3

 

② 先物相場の変動時(又は決算時)

値洗差金についての会計処理は行わない。

③ 反対売買による決済時

 
借方貸方
現金8先物取引差入証拠金3
  先物利益5

 

(2) 値洗基準による場合

① 契約時

決済基準の場合と同様に処理する。

② 先物相場の変動時(又は決算時)

 
借方貸方
先物取引差金5先物取引利益5

 

③ 反対売買による決済時

 
借方貸方
現金8先物取引差入証拠金3
  先物取引差金5

 

B社(証券会社)の処理

(1) 決済基準による場合

① 契約時

 
借方貸方
現金3先物取引受入証拠金3
先物取引差入証拠金4現金4

 

② 先物相場の変動時(又は決算時)

 
借方貸方
現金10先物取引差金10

 

③ 反対売買による決済時

 
借方貸方
現金4先物取引差入証拠金4
先物取引受入証拠金3現金8
先物取引差金10先物利益5

 

(2) 値洗基準による場合

① 契約時

決済基準の場合と同様に処理する。

② 先物相場の変動時(又は決算時)

 
借方貸方
現金10先物取引差金5
  先物利益5

 

③ 反対売買による決済時

 
借方貸方
現金4先物取引差入証拠金4
先物取引受入証拠金3現金8
先物取引差金5  

 

 

[設例2] 先物取引(その2:現受け決済)

1 取引の状況

上記の〔設例1〕で、A社、B社ともに反対売買による差金決済をしないで、現受け決済をした。最終清算値段は円、現受対象現物の交換比率は1.13である。

2 会計処理

A社(事業会社)の処理

(1) 決済基準による場合

① 決算時後の値洗時

値洗差金についての会計処理は行わない。

② 現受け決済時

(ⅰ) 先物損益を認識する方法

 
借方貸方
現金10先物取引差入証拠金3
  先物利益7
有価証券(注)110現金110

(注) 110=97×1.13

 

(ⅱ) 先物損益を認識しない方法

 
借方貸方
有価証券103先物取引差入証拠金3
  現金100

 

(2) 値洗基準による場合

① 決算時後の値洗時

 
借方貸方
先物取引差金2先物利益2

 

② 現受け決済時

 
借方貸方
現金10先物取引差入証拠金3
  先物取引差金7
有価証券(注)110現金110

(注) 110=97×1.13

 

B社(証券会社)の処理

(1) 決済基準による場合

① 決算時後の値洗時

 
借方貸方
現金4先物取引差金4

 

② 現受け決済時

(ⅰ) 先物損益を認識する方法

 
借方貸方
現金4先物取引差入証拠金4
先物取引受入証拠金3現金10
先物取引差金7  
先物取引差金7先物利益7
有価証券(注)110現金110

 

(ⅱ) 先物損益を認識しない方法

 
借方貸方
現金4先物取引差入証拠金4
先物取引受入証拠金3現金10
先物取引差金7  
先物取引差金7現金110
有価証券(注)103  

 

(2) 値洗基準による場合

① 決算時後の値洗時

 
借方貸方
現金4先物取引差金2
  先物利益2

 

① 現受け決済時

 
借方貸方
現金4先物取引差入証拠金4

 

 
借方貸方
先物取引受入証拠金3現金10
先物取引差金7  
有価証券(注)110現金110

(注) 110=97×1.13

 

[設例3] 保有資産のヘッジ取引(その1:分離方式と一体方式)

1 ヘッジ取引の状況

A社(決算日:各年3月31日)は、199×年3月1日に、10億円の国債を額面100円につき105円で購入した。この国債は約3ヵ月後に売却する予定である。A社は、この3ヶ月における債権の相場変動リスクを回避する目的で、債券先物市場で6月限月の債権先物10契約(10億円)の売建取引を行った。A社は、有価証券の評価基準として原価法を、また、先物に係る損益の認識基準として値洗基準をそれぞれ採用している。

国債の現物市場と債権先物市場の相場の動きは、次のとおりであった。

 
 現物先物現物市場(円)先物市場(円)
3月 1日購入時売建約定時105100
3月31日決算時決算時9892
5月25日売却時決済時9589

 

記の取引について、先物の相場変動による利益は、次のように計算される。

決算時(100円-92円)/100×1,000百万円=80百万円

決済時( 92円-89円)/100×1,000百万円=30百万円

(なお、証拠課金の授受、手数料及び税金は、考慮外としている〔設例4〕及び〔設例5〕において同じ。)

2 ヘッジ効果の判定

(1) 決算時のヘッジ効果

事後テストとして、決算時において上記の先物取引についてヘッジ会計を適用することの適否を判定する必要がある。この事後テストは、次のとおりである。なお、事前テストの要件は満たされているものとする。

ヘッジ行為開始時から決算時までの間における現物国債の相場変動による損失:

(105円-98円)/100×1,000百万円=70百万円

現物国債と債券先物の相場変動による損益の比率:

70百万円/80百万円=88%

この結果、債権先物とヘッジ対象資産の相場変動には事後テストを満たす高い相関関係があり、決算時においてヘッジ会計を適用することが適当と判断された。

(2) 売却・決算時のヘッジ効果

現物国債の売却時及び先物の決済時においても、事後テストとして、上記先物取引についてヘッジ会計を適用することの適否を判定する必要がある。この場合、ヘッジの有効性を判定する期間としては、①ヘッジ行為開始時からヘッジ行為終了時までの期間をとる方法と、②前期末からヘッジ行為終了時までの期間をとる方法が考えられる。

①の期間による判定を行う場合

ヘッジ行為開始時からヘッジ行為終了時までの相場変動による損益:

現物国債

(105円-95円)/100×1,000百万円=100百万円(損失)

債権先物

(100円-89円)/100×1,000百万円=110百万円(利益)

現物国債と債権先物の相場変動による損益の比率:

100百万円/110百万円=91%

②の期間による判定を行う場合

前期末からヘッジ行為終了時までの相場変動による損益:

現物国債

(98円-95円)/100×1,000百万円=30百万円(損失)

債権先物

(92円-89円)/100×1,000百万円=30百万円(利益)

現物国債と債権先物の相場変動による損益の比率:

30百万円/30百万円=100%

この設例では、①及び②のいずれの方法によっても、債権先物とヘッジ対象資産の相場変動には高い相関関係があり、売却・決済時においてもヘッジ会計を適用することが適当と判断された。

3 ヘッジ会計の処理

購入・売建約定時、決算時、売却・決済時の各時点における処理は、次のようになる。(単位:百万円)

(1) 分離方式(損益繰延方式)による場合

① 現物の購入・先物の売建約定時

現物

 
借方貸方
有価証券1,050現金1,050

 

先物

先物の約定残高は、貸借対照表に計上しないので、会計処理は行わない。

② 決算時

現物

先物の約定残高は、貸借対照表に計上しないので、会計処理は行わない。

先物

 
借方貸方
先物取引差金80繰延先物利益80

 

③ 現物の売却・先物の決済時

現物

 
借方貸方
預金950有価証券1,050
有価証券売却損100  

 

先物

 
借方貸方
先物取引差金30繰延先物利益30
現金110先物取引差金110
繰延先物利益110先物利益110

 

(2) 一体方式(簿価修正方式)による場合

① 現物の購入・先物の売建約定時

分離方式(損益繰延方式)による場合と同様に処理する。

② 決算時

現物

有価証券の評価基準は原価法であるので、会計処理は行わない。

先物

 
借方貸方
先物取引差金80有価証券簿価修正(注)80

(注)貸借対照表上、「有価証券簿価修正」は「有価証券」からの控除項目として表示する。

 

③ 現物の売却・先物の決済時

現物

 
借方貸方
預金950有価証券1,050
有価証券簿価修正100有価証券売却益10

 

先物

 
借方貸方
先物取引差金30有価証券簿価修正30
預金110先物取引差金110

 

 

[設例4] 保有資産のヘッジ取引(その2:先物損益の配分)

1 ヘッジ取引の状況

B社(決算日:各年3月31日)は、国債の売買取引を資金運用の一環として行っており、購入した国債の一部について当該債権の相場変動リスクを回避する目的で、債権先物の売建取引を行った。199×年1月から3月の間の取引の概要は、次のとおりである。B社は、国債の払出価額の算定方法として移動平均法を、また、先物に係る損益の認識基準として決済基準を採用している。

(1) 現物国債の取引状況

 
取引日売買の別銘柄(回)価格(円)額面(百万円)金額(千円)
1.1010092.771,000927,700
1.1210190.94500454,700
1.1210293.132,0001,862,600
1.1210497.122,5002,428,000
1.2010190.761,000907,600
1.2510496.871,5001,453,050
2.1810184.62△1,000△846,200
2.2510490.15△1,000△901,500
3.1010085.191,000851,900
3.2010285.66△2,000△1,733,200
取引額合計5,5005,404,650

 

(2) ヘッジを目的とする債券先物取引の状況

199×年1月12日に、同日現在の国債残高の一部をヘッジする目的で、債券先物の売建取引を行った(約定単位:104.25円)。この売建取引の内容は、次のとおりである。

ヘッジ対象物

 
取引日取引日銘柄(回)額面(百万円)ヘッジ比率先物金額(百万円)
1.121.121015000.85425
1.121.121022,0000.881,760
1.121.121042,5000.922.300
取引額合計5,000 4,485(45契約)

 

上に示したヘッジ比率は、ヘッジ対象の国債をほぼ全額カバーできるように、債券先物(クーポンレート6%、残存期間10年の国債標準物)に対する各ヘッジ対象国債の交換比率を参照して決定したものである。このヘッジ比率を用いてヘッジ対象国債を先物金額に換算した結果、ヘッジ目的の債券先物を上記のとおり45契約売建約定した。

(3) 債券先物取引の決済状況

上記の債券先物取引を、2月16日に単価97.19円で反対売買により差金決済した。その決済状況は、次のとおりである。

 
取引日契約数内容単価(円)約定金額(千円)
1.1245契約売約定104.254,691,250
2.16反対売買97.194,373,550
差金決済額(利益)317,700

 

2 ヘッジ効果の判定

ヘッジ行為開始時とヘッジ行為終了時の間のヘッジ対象国債の相場変動は、次に示すとおりであった。なお、事前テストの要件は、満たされているものとする。

相場の動き

 
銘柄(回)ヘッジ行為開始時ヘッジ行為終了時額面(百万円)評価損(千円)
(先物契約時)(円)(先物決済時)(円)
10190.9484.0550034,450
10293.1387.052,000121,600
10497.1290.952,500163,250
合計5,000319,300

 

事後テストとして、債券先物と国債の相場変動による損益の比率を計算すると、次のようになる。

317,700千円/319,300千円=99%

この結果、債券先物と現物国債の相場変動には高い相関関係があり、ヘッジ会計を適用することが適当と判断された。

3 ヘッジ会計の処理

2月16日には、次の処理が行われる。なお、以下の処理は分離方式(損益繰延方式)による。

(単位:千円)

 
借方貸方
預金317,700繰延先物利益317,700

 

本設例では、ヘッジ目的の先物が複数の対象物をヘッジしているので、上の処理によって繰延処理された先物損益をヘッジ対象の現物国債に係る損益と合理的に期間対応させるためには、①先物損益を各ヘッジ対象物へ配分するポートフォリオ配分と、②各ヘッジ対象物へ配分された先物損益をヘッジ対象物に係る損益の計上にあわせて配分する期間配分の二段階の配分計算が必要である。

(1) ポートフォリオ配分

ヘッジ対象物が複数の場合には、ヘッジ会計の適用に際し、ヘッジ取引から生じた繰延先物損益を各対象物に合理的に配分しなければならない。

この配分は、各ヘッジ対象物に対するヘッジの効果を反映する配分基準に基づいて行うのが合理的である。例えば、その配分方法としては、次のような方法が考えられる。

① ヘッジ行為開始時又は終了時における各ヘッジ対象物の時価を基礎とする方法

② ヘッジ行為終了時における各ヘッジ対象物の帳簿価額を基礎とする方法

③ ヘッジ行為開始時からヘッジ行為終了時までの間における各ヘッジ対象物の相場変動幅を基礎とする方法

下に示す配分計算は、ヘッジ行為開始時における各ヘッジ対象物の時価を基礎とする配分例である。

 
銘柄(回)ヘッジ行為開始時の時価(千円)百分比繰延先物利益配分額(千円)
101457,7009.5821%30,442
1021,862,60039.2515%124,702
1042,428,00051.1664%162,556
合計4,745,300100.0000%317,700

 

(2) 期間配分

① 現物国債取引の銘柄別要約

本設例の1(1)で示した現物国債の取引を銘柄別に要約すると、次のようになる。

 
取引日売買の別銘柄(回)売買価格(円)額面(百万円)売買金額(千円)受払金額(千円)帳簿残高(千円)移動平均単価(円)
1.1010092.771,000927,700927,700927,70092.77
3.1010085.191,000851,900851,9001,779,60088.98
1.1210190.94500454,700454,700454,70090.94
1.2010190.761,000907,600907,6001,362,30090.82
2.1810184.62△1,000△846,200△908,200454,10090.82
1.1210293.132,0001,862,6001,862,6001,862,60093.13
3.2010286.66△2,000△1,733,200△1,862,60000
1.1210497.122,5002,428,0002,428,0002,428,00097.12
1.2510496.871,5001,453,0501,453,0503,881,05097.0263
2.2510490.15△1,000△901,500△970,2632,910,78797.0263

 

② 現物国債の売却損益に対する先物損益の配分

第一段階でポートフォリオ配分された繰延先物利益について、第二段階での配分では、これをヘッジ対象の現物国債の払出しに対応させて比例的に期間配分することが合理的であると考えられる。

本設例では、ヘッジ対象物は1月12日に取得した第101回国債500百万円、第102回国債2,000百万円、第104回国債2,500百万円であり、その払出計算は、銘柄別の移動平均法によって行われているため、この払出に合わせて比例的に繰延先物利益の期間配分を行うと、次のようになる。

ⅰ 2月18日の第101回国債の売却損に対する配分

額面100円当たりの繰延先物利益---30,442千円/1,500百万円×100=2.0295円

繰延先物利益の配分額----2.0295円×1,000百万円/100=20,295千円

この配分計算により、ヘッジ会計の処理は、次のようになる。

(単位:千円)

 
借方貸方
預金846,200有価証券908,200
有価証券売却損62,000  
繰延先物利益20,295  先物利益20,295

 

ⅱ 3月20日の第102回国債の売却損に対する配分

額面100円当たりの繰延先物利益----124,702千円/2,000百万円×100=6.2351円

繰延先物利益の配分額----6.2351円×2,000百万円/100=124,702千円

この配分により、ヘッジ会計の処理は次のようになる。

(単位:千円)

 
借方貸方
預金1,773,200有価証券1,862,600
有価証券売却損129,400  
繰延先物利益124,702先物利益124,702

 

ⅲ 2月25日の第104回国債の売却損に対する配分

額面100円当たりの繰延先物利益----162,556千円/4,000百万円×100=4.0639円

繰延先物利益の配分額----4.0639円×1,000百万円/100=40,639千円

この配分により、ヘッジ会計の処理は次のようになる。

(単位:千円)

 
借方貸方
預金901,500有価証券970,263
有価証券売却損68,763  
繰延先物利益40,639先物利益40,639

 

上に示した繰延先物利益の期間配分を要約して表示すると、次のようになる。

 
取引日売買の別国債の銘柄(回)国債の額面残高(百万円円)増減(千円)繰延先物利益
残高(千円)額面100円当

 

り単価(円)
2.16(反対売買)1011,50030,44230,4422.0295
2.18現物売却101△1,000△20,29510,1472.0295
2.16(反対売買)1022,000124,702124,7026.2351
3.20現物売却102△2,000△124,7020

0

2.16(反対売買)1044,000162,556162,5564.0639
2.25現物売却104△1,000△40,639121,9174.0639

 

③ 低価法による評価損に対する先物利益の配分

B社が現物国債の評価基準として低価法を採用している場合には、決算時において、低価法によるヘッジ対象国債の評価損に対応して、繰延先物利益の残高を期間配分する必要がある。

ヘッジ対象の各現物国債の評価損とこれに対応する繰延先物利益の期末残高は、次のとおりである。

 
銘柄(回)額面(百万円)帳簿価額(千円)期末時価(円)期末評価額(千円)評価損(千円)

繰延先物利益(千円)

1002,0001,779,60085.091,701,80077,8000
101500454,10084.56422,80031,30010,147
1043,0002,910,78790.012,700,300210,487121,917
合計5,5005,144,487 4,824,900319,587132,064

 

上の帳簿価額、評価損及び繰延先物利益の期末残高を額面100円当たり単価で示せば、次のとおりである。

 
銘柄(回)額面(百万円)帳簿価額(単価)(円)期末時価(単価)(円)評価損(単価)(円)繰延先物利益(単価)(円)
1002,00088.9885.093.890
10150090.8284.566.262.0295
1043,00097.026390.017.01634.0639

 

上にみるとおり、ヘッジ対象銘柄のいずれについても、低価法の適用による評価損の単価が、繰延先物利益の期末残高の単価を上回っている。こ場合、現物国債の評価損に対して繰延先物利益を配分する一つの方法としては、その期末残高全部を取崩して利益に計上し、評価損を相殺する方法が考えられる。この配分方法による会計処理は、次のようになる。

(単位:千円)

 
借方貸方
有価証券評価損319,587有価証券319,587
繰延先物利益132,064  先物利益132,064

 

 

[設例5] 予定取引のヘッジ取引

1 ヘッジ取引の状況

C社(決算日:各年9月30日)は、3ヵ月後に変動金利(ユーロ円ベース:LIBOR+0.5%)による50億円の借入れ(期間3ヶ月)を予定している。この借入に係る金利変動リスクを回避するため、199×年3月1日に日本円短期金利先物(50契約)を、約定価格93.38で売建て、借入実行日の6月1日に92.61で買戻した。C社は、先物に係る損益の認識基準として値洗基準を採用している。

3月1日

ユーロ円金利 LIBOR 6+3/4(6.75%)

日本円短期金利先物 93.38(6.62%)

6月1日

ユーロ円金利 LIBOR 7+3/8(7.375%)

日本円短期金利先物 92.61(7.39%)

この場合、金利先物取引の利益は、次のように計算される。

(93.38-92.61)×2,500円×100×50契約=9,625千円

2 ヘッジ効果の判定

事後テストとして、ヘッジ行為開始時とヘッジ行為終了時の間における金利先物の相場とヘッジ対象たるユーロ円金利の変動幅の比率をみると、次のとおりである。なお、事前テストの要件は、満たされているものとする。

ユーロ円金利の変動 7.375%-6.75%=0.625%

金利先物の相場変動 7.39%-6.62%=0.77%

0.625%/0.77%=81%

この事後テストの結果、金利先物とヘッジ対象たる予定取引の相場変動には高い相関関係があり、ヘッジ会計を適用することが適当と判断された。本設例では、ヘッジ行為終了時と予定取引実行時が同一であるが、ヘッジ行為終了後に予定取引が実行される場合には、予定取引実行時にもヘッジ効果の判定を行う必要がある。

また、本設例では、ヘッジ行為開始時からヘッジ行為終了時までの間に決算日がないことを前提としているが、ヘッジ行為終了時以前に決算日が到来する場合には、その決算時においてヘッジ会計を適用することの適否について、同様の方法で事後テストを行う必要がある。

3 ヘッジ会計の処理

この場合のヘッジ会計の処理は、次のとおりである。なお、以下の処理は、分離方式(損益繰延方式)による。(単位:千円)

(1) 金利先物約定時から決済時まで

金利先物の約定残高は貸借対照表に計上しないので、約定時には会計処理は行わない。一方、約定時から決済時までの間に先物の相場変動について次の会計処理が行われる。

(単位:千円)

 
借方貸方
先物取引差金9,625繰延先物利益9,625

 

(2) 借入実行時(金利先物の決済時)

先物に係る利益は、予定した借入が実行され、当該借入に係る支払利息が計上されるまでは、繰延先物利益として処理される。借入実行時(金利先物の決済時)の処理は、次のとおりである。

(単位:千円)

 
借方貸方
預金9,625先物取引差金9,625
預金5,000,000借入金5,000,000

 

(3) 借入金の支払利息計上時

繰延先物利益は、当該借入金に係る支払利息の計上にあわせて期間配分され、借入期間(3ヶ月)を通じて利益に振替えられる。本設例ではC社が月次で支払利息を計上するとした場合、6月30日の処理を示せば、次のようになる。

(単位:千円)

 
借方貸方
支払利息(注1)32,813未払利息32,813

(注1) 32,813=5,000,000×(7.375%+0.5%)×1/12

 

(単位:千円)

 
借方貸方
繰延先物利益(注2)3,208先物利益3,208

(注2) 3,208=9,625×1/3

7月末及び9月末においても同様に、繰延先物利益の期間配分処理を行う。